November 10, 2005

CIT:argumentは喧嘩ですか?

「ほんとうの英語がわかる51の処方箋」ロジャー・パルバース/上杉隼人著 新潮選書2001年 p.187~191

「日本社会では敬意が示されるが、西洋社会では対立的になる。
 これが両社会における大きな違い(key difference)です。しかし、よく考えてみて下さい。それは単に表面的な違いだけです。というのは、日本社会における敬意は、西洋社会における対立と同じ役割を果たしています。
 互いに敬意を示し合うことによって、互いに距離を置くことによって、日本人は互いの平穏を保ちます。……
 西洋社会に見られる人々の対立姿勢は、日本人にすれば少々行き過ぎの感があるかもしれませんが、それは実際日本社会における敬意の提示と同じ役割を果たします。それによってぼくらはぱっと癇癪を爆発させることができるし、逆にその怒りを抑えることもできます。それは安全弁です。論争する、言い合う、腹の中の熱いものをすべて残さず吐き出し、人にわかってもらう……これこそ平和維持行為です。あまりに慇懃な態度を保持して、言いたいことも言わずにいれば、西洋においては、フラストレーションがたまり、ついには暴力にまで発展してしまいます。
 この慇懃な態度(これも度を過ぎれば慇懃無礼になってしまいます)が、日本人が欧米社会で成功を収めるのをむずかしくしているのかもしれません。日本人の中には論点を主張しない人もいれば、自分の立場を明らかにしない人もいます。これによって、その人たちは意気地がないと思われたり、その消極的な姿勢ゆえに相手を怒らせてしまうことがあります。日本人は欧米人に対して、欧米人が日本人に対するよりも、概して寛容です。ぼくらが腕を振って何かを力説しようとしている様子を見て楽しんでいるふしさえ時にうかがえます。
 ……
 しかし、とにかく、ぼくら欧米人は論争が大好きです!
 でも、論争(arugument)とは何でしょう?ディスカッションでしょうか、口論(quarrel)でしょうか、それとも実際の殴り合い(real fight)でしょうか?
……
 思うに、日本語の「喧嘩」に一番近い英語は、argumentです。しかし、手元にある一番大きな和英辞典でkenkaを引いてみても、quarrel,dispute,altercation,wrangle,brawl,squabble,row,disagreement,dissension,feud,fight,scuffle,fray,strife,free fight,free-for-allと出てきますが、argumentはどこにも見当たりません!」
 ……
 ぼくの両親は、ぼくが幼い頃、しょっちゅう夫婦喧嘩をしていました。家族はみんなそれを an argumentと言っていました。ぼくはそれが「喧嘩」にピッタリの訳語だと信じています。
……
 しかし、どうしてぼくら欧米人はargumentにそんなにこわわるのでしょう?
 それは、この単語の中心の意味を知ればわかります。 
argueは、「明らかにする、論証する、証明する」(to clarify,demonnstrate,prove)ことを意味するラテン語から来ています。
……
そしてもう一つの意味は、「論争する、主張する」(to dispute,to insist on)ことです。
……
to argueの3番めの意味は、「何かについて賛成か反対か論議する」(to discuss the pros and cons of something)ということです。
 そして4番めの意味は、「強く反対する、怒りのことばを浴びせ合う」(to disagree forcefully,to exchange angry words)ことです。」

14:21:11 | akybe | comments(0) | TrackBacks