November 17, 2005

CIT:万人がもつ詩を表す責務(金時鐘キム・シジョン)

朝日新聞2005年11月12日夕刊文化芸能欄時金鐘へのインタビュー(インタビュー・白石明彦)から

「岩盤のようなこの世に生きて、誰もがひっかき傷のような生の痕跡を残したいと思う。それが詩です。詩は万人によって書かれるべきものであり、人は自らの詩を何かに託して生きています。料理人にはいい料理を作りたいという一念がある。それが詩なんです。詩人はたまさか言葉による詩を持っているにすぎない。詩人には、言葉にできないものを抱えて生きるその他大勢の人々の思いを表現する責務があります。私がつむぎ出す詩の言葉は私個人の思いですが、その他大勢の人々に支えられたものでなければなりせん。
 日本の現代詩は優れて私的な内面言語をこね回し、自己と対話することに終始しています。生活実感に乏しくリアリティーがなさすぎる。社会的、政治的な詩を書けというのではありません。自分も、様々な悩みや矛盾を抱えて生きるその他大勢の一人であると認識したら、内面言語に執着してなどいられません。純粋さが詩の命ならば世俗にまみれた純粋さを見つけ出さなければ。さもなくば詩は観念の申し子にすぎない。
 時代が大きくカーブを切り、人類史的に見ても誇るべき憲法が損なわれようとしているのに、現代詩の表現に時代の陰りはほとんど見えません。不安のおののき一つ見えない。今の日本ほど詩が軽んじられている国は地球規模で見てもありません。」

00:14:05 | akybe | comments(0) | TrackBacks