May 04, 2009

バルガス=リョサ「楽園への道」への書評(桜庭一樹)から

バルガス=リョサ「楽園への道」への書評(桜庭一樹)から
日経新聞(2008/2/24)

「作家が「ゴーギャンの生涯を描きたい」と考えたとき、立ちはだかるのが、巨星サマセット・モームだ。ゴーギャンの伝記から暗示を得て、1919年に書かれた『月と六ペンス』は、平凡な株屋が芸術の神にとり憑かれ、タヒチに逃れて天才画家となる物語を、自身も何者かにとり憑かれたような反逆の筆で描き切った怪傑作で、わたしはこれを読んだとき床に倒れふして(そのときは作家志望の女子高校生だった)、「もう世界の誰も、ゴーギャンの生涯を小説にして、世界文学になることはできまいよ…」と呻いた。
 それから月日は矢のように過ぎ、約二十年後の今日、本書を読んだ。あの日わたしが不可能と決めつけたことを易々と成し遂げた作品で、バルガス=リョサ個人にも、南米文学にも改めて敬意を持つことになった。」
「解説によると、バルガス=リョサはとある文学賞を受賞した折、「文学は熱い火である」「作家の存在理由は反逆と批判である」とスピーチしたそうだ。彼自身もまた、ゴーギャンと、そしてモームと同様”神の敵”たる芸術家であり、だからこそこの物語を描き切れたのだろう。」

23:03:26 | akybe | comments(0) | TrackBacks