August 27, 2009

「8月30日の夜に」渡辺 靖(慶応大学教授(文化人類学)

渡辺 靖(慶応大学教授(文化人類学)
2009/08/27朝日新聞オピニオン欄インタビュー(「8月30日の夜に」)から、以下引用します。

「細かな政策論議も大切ですが、単なる選挙公約を超えた、樹木で言えば「幹」となるべき「理念」や「哲学」こそ私は聞きたい。個々の政策は「幹」から導き出されるものですし、たえず「幹」に戻りながら熟議されべきものです。
 
 でも、実は、政治家は「理念」や「哲学」を語るだけでは十分でない、と私は考えています。

 昨年のアメリカ大統領選は、多くの人にとって、まだ記憶に新しいでしょう。政治の世界でも、心を揺さぶられるような言葉や行動の数々があることを私たちは知ることができました。

 例えば、オバマと争った共和党のマケインは、ベトナム戦争で捕虜収容所に5年半もいた際、仲間を置いて自分だけ釈放されることを固辞したという武勇伝を持ちます。オバマも、ハーバードのロースクールを卒業後、高収入と出世への道を自ら絶って公民権専門の弁護士という地味な職を選び、貧困層の救済に尽力しました。だからこそ、2人が描く「アメリカ」には強い説得力がありました。「友愛」や「とてつもない日本」とは、語っている重みがまったく違います。

 衆院選は終盤を迎えましたが、これまでの選挙戦の中で、私たちは各党の党首や幹部、候補者たちから、人間として、あるいは指導者としての、資質に富んだ言葉や行動をどれだけ見聞き出来たでしょうか。

 近代民主政治は財力や血統ではなく、言葉で行われるべきものです。その言葉に信頼を与えるのは、語り手の生き様や資質です。こればかりは、いくら優秀な政治コンサルタントが付け焼き刃的に鍛えようとしても得られません。

…「この人のためなら多少の不満や犠牲を惜しんでも」と思わせることが、政治指導者にはかかせません。

…政治家が若い世代の心を揺さぶる存在になっているかが問われます。自分は若者が駆けつけたくなる、自らを重ね合わせたくなるあこがれの存在だろうか。食費を削ってでも応援したい候補者だろうか。そう自問している日本の政治家がどれだけいるでしょう。

…私には30日の、投開票日の夜に期待したいことがあります。それは、勝者の弁とその行動です。

 勝者は敗者にどんな呼びかけをするのでしょう。

…民主主義は多数決と同じではありません。むしろ勝者(多数派)が敗者(少数派)にどれだけ耳を傾け、信頼と共感を勝ちえていくかによって真価が問われます。

…日本は主要先進国の一つです。どうかこのことを忘れないでほしい。勝った側の党首は国際社会へ向けて明確なメッセージを発してほしい。日本の次の首相になる政治家には「これからの世界をどうしたいか」を語ってほしい。内向きのメッセージしか発しないようでは、失望を繰り返すだけです。」



Posted by akybe at 09:40 P | from category: 引用句・語録 | TrackBacks
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