April 25, 2005
1964.7.19(日曜日)
1964.7.19日曜日
〇今日K.に電話をした。電話しようかどうかずいぶん迷ったのだけどとうとうダイヤルを回してしまった。電話の結末がどういうものになるか最初からわかっているような気がして、ずいぶん迷ったのだ。
かけなければ良かったと電話が終わったらきっと思うことだろうと電話をかける前にも考えていたのだ。予想したとおりになった。悔恨の味は苦かった。でも、そうした結末がわかっていながらかけずにおれなかった自分がなおさらに愛しかった。
つくづくと電話の不便さが思われた。面と向かって会っていたなら黙っていてもお互いの気持ちはわかるし、退屈なんかしやしない。それが電話となると事情が全然違ってくる。まるで短距離競争のようにお互いが、息せき切って話しまくらなければならないのだ。ちょっとした話の途切れが何か耐えられないようなものに感じられる。お互いの心が、その瞬間非常に遠くに隔てられたような感じがして、愚にもつかないようなことを話し出してしまう。自嘲の苦い笑いに唇を歪めながら、つまらない話に何とか収拾をつけようと、ますます深みにはまっていく。自分自身を、まるで野良犬を見るような哀れな目で眺めなければならないことになってしまうのだ。
受話器を置いてやっと平常の心に立ち戻る。いったい自分は何のために電話したのだろう、いったいどんなことをしゃべったのだろう。受話器を持ち上げる前には、何と心は現実からかけ離れたところにあったことだろう。
「君の声を一声聞きたくてお電話したんだ」こんな甘い殺し文句をのうのうと伝える気がしていたのだ。つい2日前お互いの心があんなにも近くにあったのを、こんなつまらない電話で、むざむざと遠くかけ離れたものにしてしまいはしなかったろうか。いや、そんなことはないだろう。甘い期待とやるせない後悔の渦が心の中にぐるぐると激しい輪を描き始め、僕はのろのろと電話のそばから離れて行かざるを得ないのである。
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